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2009年12月21日

 毎年、冬になるとインフルエンザの流行が気になってくるが、2009年は事情が違った。4月に新型インフルエンザの発生がメキシコで確認されると全世界に広がり日本も8月以降、多くの人が入院し死亡例も報告されるようになると電車、バス、駅構内などでマスク姿の人たちが目立つようになった。

 インフルエンザは抗原性の違いからA、B、C型の三種類があり、A型は世界的に大きな流行を繰り返してきた。歴史的には全世界で2000万人から4000万人が亡くなったといわれたスペイン風邪やイタリア風邪、アジア風邪、香港風邪、ソ連風邪がよく知られている。今、話題の新型インフルエンザはブタ由来インフルエンザA(H1N1)による感染症である。

 インフルエンザにはこれまで決定的な診断法がなかったが現在はA型、B型の診断キットがあり20分ほどで結果が出るため的確な診断ができるようになった。インフルエンザは、普通の風邪と違ってのどの痛み、鼻汁に加え39℃程度の高熱、頭痛、関節痛、筋肉痛など全身症状が出て倦怠感も強いのが特徴である。新型インフルエンザもこれまでの季節性と同様に唾液による飛沫によって感染すると考えられており潜伏期間は1~7日と言われている。治療に西洋医学では抗インフルエンザ薬を用いるが、漢方医学でも有効な薬方として麻黄湯(まおうとう)がある。

 医師が用いる医療用漢方エキスの添付文書には「インフルエンザ(初期のもの)に効果がある」と記載されている。麻黄湯は古くから発熱や頭痛、首筋・肩、背中、腰など全身の筋肉や関節の痛み、動悸、息切れ、寒気、咳、鼻詰まり、のどの痛みなど、さまざまな症状に効くといわれてきた。このような症状が現在のインフルエンザで見られる症状と一致していると考えられ医師にも広く使われている。麻黄湯は麻黄(まおう)、桂皮(けいひ)、杏仁(きょうにん)、甘草(かんぞう)の4つの生薬からなり、麻黄と桂皮は血管を拡張して血行を旺盛にし発汗を促す作用がある。杏仁は麻黄と共に咳を治し、甘草は麻黄と協力して利尿効果を表すと考えられている。日頃から体が丈夫で汗が自然に出ない人を対象にし体力が著しく衰えている人に使うときは注意がいる。インフルエンザの治療に麻黄湯を使った最近の研究では抗ウイルス薬などと同等かそれ以上の効果があることが報告されている。さらに麻黄湯はインフルエンザによる発熱に対する効果は抗ウイルス薬とほぼ同程度で全身倦怠感や頭痛、筋肉痛に対する効果は抗ウイルス薬より有効だったとの研究成果も出ている。特に抗ウイルス薬は小児では異常行動などの副作用が心配されており、副作用が少なく効果的な麻黄湯は有用な薬と位置付けられている。日本感染症学会の新型インフルエンザ診療ガイドラインには、一般的治療で「漢方薬による診療に習熟した医師のもとでは一部の麻黄湯などの漢方薬を投与することも可能である」と記載されている。古くからある漢方薬が新しく登場した薬に負けず劣らずの力を秘めている。

著者
天野 宏(あまの ひろし)
1971年日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。日経メディカル副編集長,日経メディカル開発編集部長などを経て,現在フリーランス医療ジャーナリスト,薬学博士,薬剤師。
2009年7月30日までの連載のバックナンバー
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20091215/1030564/

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