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アメリカでは,300人の子どものうち1人が「自閉症」で,患者は1年ごとに10%以上も増え続けているという。その原因の一つは,乳児のときに接種したワクチンである可能性がたいへん高くなってきた。
生ワクチン以外の予防接種ワクチンは,多くが防腐剤としてチメロサールという有機水銀をふくんでいる。この水銀が脳に影響しているらしい。二つのつながりを明らかにした決定版ともいえる研究が,この春,アメリカの専門誌に出た。それとともに,議会と大統領に法的な措置をもとめる勧告を議会小委員会が出した(1)。
ワクチンと「自閉症」のつながりをしめす研究はすでに2000年に出ていて,それを紹介する記事を私も書いたことがある。その後もアメリカでは激しい論戦が続いてきた。
ところが01年にアメリカ科学アカデミーの医学研究所(IOM)が,今までのところ結論を出すには至らないとする報告を出したため,日本では厚生労働省の指導でメーカーが濃度を10分の1に下げただけにとどまった。
アメリカでは患者から,ワクチン製造会社を相手どって損害賠償を求める集団訴訟が起こされているが,まだ結論は出ていない。
今度の論文は,『アメリカ内科・外科医雑誌』の春季号に載ったもので,含まれる水銀の量と「自閉症」のあいだに強い結びつきがあることを示している(2)。
▼「自閉症」の症状
論文の中味を吟味する前に,「自閉症」とはどういうものかを簡単に見ておきたい。
医師の思い入れなしに正しい判断ができるよう,WHO(世界保健機関)や各国の政府が診断基準を決めている。「自閉症」に共通してみられる症状として,①社会関係の障害(人との相互作用がとぼしい)②コミュニケーションの障害(言葉が遅れたり,使い方がおかしい)③反復行動(同じ行動の繰りかえしを好む)の三つが上がっている。多くは1~2歳の幼児期に症状が出はじめる。
それと分かる変化が脳に生じている場合もあれば,言葉の遅れや運動能力の障害がなく風変わりな個性にみえる場合など,いくつもの類型にわかれる。「学習障害」に近いものを入れる場合もあり,分類について意見がわかれるため,すべてを一まとめにして「自閉症圏障害」(ASD)ともいう。
青春期の「引きこもり」を「自閉症」だと誤解する人がいるが,まったく違うものであることがわかる。この名前は症状をいい当てているといえないので,ここではカッコつきで「自閉症」と書き表すことにする。
▼水銀量が増えると危険性が増大
03年3月に出た論文は,アメリカ遺伝学センターのマーク・ガイアー所長らが書いたものだ。ガイアー博士らは,はじめにあげたIOMのデータを使って,子どもたちが体内に取り入れる水銀量を計算した。ワクチン接種でどれだけ影響があったかは,IMOと独立の「ワクチン副作用報告システム」(VAERS)というデータベースに収められたものを使った。児童の中で「自閉症」,言葉の遅れなどの障害をもつ者がどれだけあるかについては,これもIMOとは独立した米教育省のデータを使っている。
結果はどうだったか。図1を見てみよう。横軸はふくまれていた水銀量,縦軸は水銀とり込み量がゼロの場合とくらべた相対リスクを表す。水銀の量が増えるにしたがって,「自閉症」のリスクが高くなることがわかる。しかも曲線が指数関数のカーブを見せている。取り込み量が多くなるほど「自閉症」のリスクは指数関数的に増大する。このようなはっきりとした関係は,これまでの研究に見られなかったものだ。
しかもこの関係は「自閉症」に限らない。言葉の遅れ,一部の心臓障害についてもおなじような関係が報告されている。言葉の遅れや心臓など循環器系にも水銀が影響を与えている可能性が強い。これらの障害が,新しく今後の研究課題として登場したといえる。
論文には,図1とは別の種類のワクチンを調べた図も掲載されていて,それもほとんど同じカーブを見せている。「自閉症」とは直接の関係がない発熱・嘔吐・痛み等の症状と水銀量の関係も調べているが,「自閉症」のような明らかな関係は見られない。
▼基準を上回る水銀
ワクチンの中で雑菌が増えるのを防ぐため入れられている防腐剤チメロサールは,物質名をエチル水銀チオサリチル酸ナトリウムといい,日本の「毒物及び劇物取締法」では「毒物」にあたる。厚生労働省によると,医薬用途には毒劇法の規制がかからない。
アメリカと同程度の1ミリリットルあたり100μg(以下μg/mlと表す)を日本ではワクチンに添加して来た。01年に厚生労働省が業界を指導したため,現在は濃度がこれまでの10分の1に下げられ,10μg/mlになっているものが多い。しかし過去の製品がそのまま残っている可能性も否定できない。
チメロサールは重さのほぼ半分が水銀で,残りが有機物でできている。したがって新しい製品が使われたとすると,水銀だけの濃度は5μg/mlになる。1回の接種量は約0.5ml(乳児の場合は,この半量)なので,1回の接種で体内に入る水銀の量は,2.5(乳児では1.25)μgだ。
この量をどう判断したらいいだろう。
日本にはエチル水銀そのものの基準値は存在しないので,食品の暫定基準値を見ると,総水銀0.4ppmとなっていて,換算すると0.4μg/mlである。ワクチンに含まれる水銀の濃度5μg/mlはこの12.5倍となる。10分の1になったといっても,まだこれだけの濃度が含まれているわけだ。
チメロサールは体内で分解し,有機水銀の一種であるエチル水銀に変わる。水俣病の原因となったメチル水銀と似た毒性をもつというが,研究は十分といえない。
チメロサールをワクチンの防腐剤として使いはじめたのは1930年代だった。そして43年に,アメリカの精神科学者レオ・カナーが幼児「自閉症」の症例を世界ではじめて報告した。翌44年にオーストリアの医師ハンス・アスペルガーがカナーよりも軽い症例を報告し,いまではその症状を「アスペルガー症候群」とよんでいる。
いまのところチメロサールに対する規制が日本やアメリカにはない。チメロサールをふくむのは,菌が生きていない不活性化ワクチンおよびトキソイドという種類で,ジフテリア・破傷風・百日咳の「三種混合ワクチン」のほか,インフルエンザHA・日本脳炎・B型肝炎の各ワクチンがこれにあたっている。チメロサールの含有量については,「細菌製剤協会」のホームページで調べられるようになっているから,関心のある方は,ここで調べていただきたい。
▼チメロサールをめぐる動き
アメリカで水銀含有ワクチンの回収をもとめる「自閉症児」の市民団体「セーフ・マインズ」などが,過去の情報や経過をまとめて公開している(3)。
古く82年の記事。日本の厚生労働省にあたるFDA(連邦食品医薬品局)の専門家会議がチメロサールの毒性に気づいた。市販の医薬品からチメロサールを除去するよう勧告を出した。しかし大きな問題とならず,そのままになってしまったという。
84年5月の東京地裁の判決に,ワクチンによる神経系障害にはチメロサールなどの添加物その他の物質も関係しているとの記述があり,日本でも当時チメロサールの神経毒性が問題になっていたことがわかる。
00年4月,アメリカの研究者サリー・バーナード,アルバート・イナヤティらが詳細な研究をもとに,チメロサールの水銀が「自閉症」の主な原因であると発表した(4)。
「自閉症」の中でも,脳に特別の変化が認められず,原因のわからない症状が,水銀中毒の症状と非常によく似ていることを明らかにした。その要点は次の通り。
①原因不明の自閉症は,多くの,というよりたいていの症例で,正常な発達の期間をかなり経たあと急に兆候が出るが,これは発達初期の水銀曝露によって起きる。
②この型の自閉症は,水銀中毒の特殊なケースをあらわす。
③ワクチン接種でチメロサールから水銀を過剰にとりこむことが,自閉症の諸特徴を生じる原因である。
④チメロサールの悪影響が一部の子どもにしかあらわれないのは,遺伝による素質やその他の素質が関係しているからである。
⑤チメロサールの水銀は,従来知られていなかった水銀症候群を引き起こしている」。
01年3月,赤ちゃんのときにうけたB型肝炎などのワクチンが障害の要因になったとして「自閉症」の人たちが製薬会社を訴えた。アメリカ・テキサス州オースチンにある地方裁判所がこの集団訴訟をうけつけ,審理が始まった。原告側は10を超える製薬会社に損害賠償を求めた。その後,アメリカ各地で同様の訴訟が起こされ,審理中である。
▼下院小委員会で調査
この問題に対して議会や政府はどう対応してきたか。00年7月,アメリカ下院の議会改革委員会で「自閉症」と水銀の結びつきについて公聴会が開かれた。委員会のダン・バートン委員長自身が「自閉症」の孫をもつため,問題の解決に強い熱意をもち,これが公聴会の実現につながったようだ。証言から一部を抜粋しよう(5)。
「解毒の過程を調べたところ,発達に遅れのある子どもでは,解毒のはたらきが恐ろしく不十分であることがわかりました。……有機のエチル水銀が脳に入ると,無機水銀に変わります。こうなると血液脳関門から元にもどることはできません。……キレート剤を使うと発達障害をもつほとんどの子どもの尿から高い濃度の水銀が出ます。血液検査で判明するよりずっと多くの子どもから鉛が出るのも興味深い事実で,脳内で鉛がエチル水銀の毒性を増強しています」(ステファニー・ケーブ医師)
公聴会のあとで「セーフ・マインズ」が結成され,FDAに対して請願を出したが,1か月後に拒否されたという。
翌01年4月,同委員会で2度目の証言が行なわれた。新しい証言をひろってみよう(6)。
「40万人以上の子どものデータベースを使った調査で,チメロサールをふくんだワクチンを何度か接種した2か月児では,全般的な発達の遅れと統計的に有意な関連が見られたという発表があります。3か月児ではチック症状,6か月児では注意力不足の障害,ことばと神経発達の遅れが全体に見られました」(ジェフリー・シーガル医師)
「試験管をつかった実験でチメロサール含有ワクチンは,チメロサールを含まないか低濃度のものにくらべて劇的に強い毒性を示しました。……これは86年に報告がある細胞培養研究の結果とよく一致します。……分解生成物が神経毒性をもつとわかっているものを防腐剤として使い続けているのは理解に苦しみます」(ボイド・ヘイリー教授=当時ケンタッキー大学,現在はシカゴ大学に在籍)。
▼下院小委員会の最終報告
アメリカ政府は,チメロサールが原因かどうかの判断を灰色のままに残し,ワクチンから水銀を除去することで問題に対応した。はっきり水銀が原因としてしまうと,その影響があまりに大きいのを恐れて,一応の決着をつけたことになるだろう。
しかし,ヘイリー教授は「チメロサールをふくむワクチンはきわめて強い毒性をもっています。この毒性は大部分がワクチンに含まれる化学物質との相乗作用によるものです」と研究会で報告している。
また,ファイファー医療センターのウォルシュ医師らは,
「自閉症の患者503名をセンターで調べたところ,499名で銅と亜鉛の血中濃度が異常に高く,メタロチオネインという蛋白の機能不全を示していることがわかりました。人では,この蛋白が水銀などの重金属類を排出して血中濃度をコントロールし,神経の発達を後押ししています。メタロチオネインの機能不全が自閉症の主な原因になっている可能性があります」と報告している。
このような背景を踏まえて,下院の議会改革委員会は調査を続け,今年からは人権福祉小委員会が仕事を引き継いだ。その結果をまとめた報告書が03年5月3日にシカゴのロヨラ大学で発表された。
報告書は,「自閉症の症状は水銀中毒の症状ときわめてよく似ている」,「接種の義務づけで,一日8000人の子どもたちがFDAの基準を超える水銀を取りこむ」などと述べたあと,「政府機関および産業界の科学文献や内部資料をすべて見直した結果,チメロサールにはリスクがあるという明確な証拠を見つけた。低濃度による慢性暴露によるものであっても,高濃度の急性暴露によるものであっても,そのリスクは理論上のものではなく,きわめて現実的なもので,医学文献にそれが示されている」と明確に述べている。
▼報告書の成果と勧告
報告書の後半には,判明した成果と勧告とが列記されている。まず判明した成果の中から重要部分を抜き出して見よう。
「水銀は人に有害である。医療品に使うのは望ましくない。必要最小限にするか,完全に除去すべきである」
「合衆国の自閉症児の数は年間10%から17%の割合で増加している。この爆発的増加について,医学界は原因を究明することができていない」
「エチル水銀の神経毒性や腎毒性については不十分な研究しか存在しない」
続いて勧告の中から重要なものを拾って見よう。
「人,動物,環境からこの危険な毒物を除去する総合的方法を開発するべきである」
「アメリカ全土から科学的な知見を集め,自閉症という流行病の原因を突き止めるよう国全体で努力するため,大統領がホワイトハウスで自閉症に関する会議を召集するべきである」
「自分たちの子どもの自閉症がワクチンによって生じたと確信のある家族は,国家ワクチン障害補償プログラムに登録する機会を与えられるべきだとする条項をこのプログラム中に含めるよう,議会は法律を改正する必要がある」などと述べ,最後に次の勧告で締めくくっている。
「水銀・メチル水銀・エチル水銀への暴露と自閉症圏障害・注意欠陥障害・湾岸戦争症候群・アルツハイマー病との因果関係を研究する計画を優先するよう,議会は国立保健研究所(NIH)に指示を与えるべきである」。
▼キレート療法で症状改善
ほんとうに水銀が原因なら,水銀を身体の外に排出することで障害を軽くできるに違いない。こんな発想から「自閉症」の治療を試みて成果をあげている医師がアメリカで増えてきた。日本でも同じ試みが現れている。
水銀などの重金属をはさみこんで体外に出す薬剤をキレート剤とよぶ。キレートはギリシャ語でカニのはさみを表す化学用語で,その作用は強く,体に必要な金属まで排出するので,不足しないようサプリメントで必要な金属を補充しながら投与する。
キレート剤のDMSA(ジメルカプトこはく酸)のみ,あるいは日本でも保健剤として市販されているリポ酸を併用して,この療法をつづけているエイミー・ホームズ医師は,五歳以下の子どもに実施した場合,四○人中七人で顕著に症状がよくなり,一六人にかなりの改善があったと報告している。改善率は年齢が低いほど高い(7)。
課題は,脳内にとどまっている水銀をどのように効率よく排出するかという点である。ホームズ医師は,「リポ酸は脂質に溶けやすいので,DMSAよりも簡単に血液脳関門を通過できます」と述べ,治療効果に期待をかけている。
▼ガイアー論文の結論
先にとりあげたガイアー博士らは,論文の最後を力強い結論で締めくくっている。
「子どものときに受けたチメロサール含有ワクチンによる水銀量と,神経発達上の障害や心臓病とが関連しているという強い疫学的な証拠が存在する。これがこの論文の示すところである。
子どものワクチンに含まれるチメロサールの水銀量は,連邦政府の安全ガイドラインを超えている。水銀が引き起こす有害反応の生物学的メカニズムを解明した多くの文献に照らしても,またこうしたワクチンによる有害反応をしめすこれまでの疫学研究によっても,子どものチメロサール含有ワクチンと神経発達障害や心臓疾患との間の因果関係が確認されたと考えられる。
すべての子ども用ワクチンからチメロサールを除去すれば,明らかに医原病である自閉症と言語障害という,合衆国が直面している悲劇を食い止めることができるだろう」。
文献
(1) www.house.gov/burton/pdf/MercuryExecutiveSummaryFindings.doc
(2) www.jpands.org/vol8no1/geier.pdf
(3) www.safeminds.org/
(4) www.autism.com/ari/
(5) www.house.gov/reform/hearings/healthcare/00.07.18/index.htm
(6) www.house.gov/reform/healthcare/autism.htm
(7) www.healing-arts.org/children/
生ワクチン以外の予防接種ワクチンは,多くが防腐剤としてチメロサールという有機水銀をふくんでいる。この水銀が脳に影響しているらしい。二つのつながりを明らかにした決定版ともいえる研究が,この春,アメリカの専門誌に出た。それとともに,議会と大統領に法的な措置をもとめる勧告を議会小委員会が出した(1)。
ワクチンと「自閉症」のつながりをしめす研究はすでに2000年に出ていて,それを紹介する記事を私も書いたことがある。その後もアメリカでは激しい論戦が続いてきた。
ところが01年にアメリカ科学アカデミーの医学研究所(IOM)が,今までのところ結論を出すには至らないとする報告を出したため,日本では厚生労働省の指導でメーカーが濃度を10分の1に下げただけにとどまった。
アメリカでは患者から,ワクチン製造会社を相手どって損害賠償を求める集団訴訟が起こされているが,まだ結論は出ていない。
今度の論文は,『アメリカ内科・外科医雑誌』の春季号に載ったもので,含まれる水銀の量と「自閉症」のあいだに強い結びつきがあることを示している(2)。
▼「自閉症」の症状
論文の中味を吟味する前に,「自閉症」とはどういうものかを簡単に見ておきたい。
医師の思い入れなしに正しい判断ができるよう,WHO(世界保健機関)や各国の政府が診断基準を決めている。「自閉症」に共通してみられる症状として,①社会関係の障害(人との相互作用がとぼしい)②コミュニケーションの障害(言葉が遅れたり,使い方がおかしい)③反復行動(同じ行動の繰りかえしを好む)の三つが上がっている。多くは1~2歳の幼児期に症状が出はじめる。
それと分かる変化が脳に生じている場合もあれば,言葉の遅れや運動能力の障害がなく風変わりな個性にみえる場合など,いくつもの類型にわかれる。「学習障害」に近いものを入れる場合もあり,分類について意見がわかれるため,すべてを一まとめにして「自閉症圏障害」(ASD)ともいう。
青春期の「引きこもり」を「自閉症」だと誤解する人がいるが,まったく違うものであることがわかる。この名前は症状をいい当てているといえないので,ここではカッコつきで「自閉症」と書き表すことにする。
▼水銀量が増えると危険性が増大
03年3月に出た論文は,アメリカ遺伝学センターのマーク・ガイアー所長らが書いたものだ。ガイアー博士らは,はじめにあげたIOMのデータを使って,子どもたちが体内に取り入れる水銀量を計算した。ワクチン接種でどれだけ影響があったかは,IMOと独立の「ワクチン副作用報告システム」(VAERS)というデータベースに収められたものを使った。児童の中で「自閉症」,言葉の遅れなどの障害をもつ者がどれだけあるかについては,これもIMOとは独立した米教育省のデータを使っている。
結果はどうだったか。図1を見てみよう。横軸はふくまれていた水銀量,縦軸は水銀とり込み量がゼロの場合とくらべた相対リスクを表す。水銀の量が増えるにしたがって,「自閉症」のリスクが高くなることがわかる。しかも曲線が指数関数のカーブを見せている。取り込み量が多くなるほど「自閉症」のリスクは指数関数的に増大する。このようなはっきりとした関係は,これまでの研究に見られなかったものだ。
しかもこの関係は「自閉症」に限らない。言葉の遅れ,一部の心臓障害についてもおなじような関係が報告されている。言葉の遅れや心臓など循環器系にも水銀が影響を与えている可能性が強い。これらの障害が,新しく今後の研究課題として登場したといえる。
論文には,図1とは別の種類のワクチンを調べた図も掲載されていて,それもほとんど同じカーブを見せている。「自閉症」とは直接の関係がない発熱・嘔吐・痛み等の症状と水銀量の関係も調べているが,「自閉症」のような明らかな関係は見られない。
▼基準を上回る水銀
ワクチンの中で雑菌が増えるのを防ぐため入れられている防腐剤チメロサールは,物質名をエチル水銀チオサリチル酸ナトリウムといい,日本の「毒物及び劇物取締法」では「毒物」にあたる。厚生労働省によると,医薬用途には毒劇法の規制がかからない。
アメリカと同程度の1ミリリットルあたり100μg(以下μg/mlと表す)を日本ではワクチンに添加して来た。01年に厚生労働省が業界を指導したため,現在は濃度がこれまでの10分の1に下げられ,10μg/mlになっているものが多い。しかし過去の製品がそのまま残っている可能性も否定できない。
チメロサールは重さのほぼ半分が水銀で,残りが有機物でできている。したがって新しい製品が使われたとすると,水銀だけの濃度は5μg/mlになる。1回の接種量は約0.5ml(乳児の場合は,この半量)なので,1回の接種で体内に入る水銀の量は,2.5(乳児では1.25)μgだ。
この量をどう判断したらいいだろう。
日本にはエチル水銀そのものの基準値は存在しないので,食品の暫定基準値を見ると,総水銀0.4ppmとなっていて,換算すると0.4μg/mlである。ワクチンに含まれる水銀の濃度5μg/mlはこの12.5倍となる。10分の1になったといっても,まだこれだけの濃度が含まれているわけだ。
チメロサールは体内で分解し,有機水銀の一種であるエチル水銀に変わる。水俣病の原因となったメチル水銀と似た毒性をもつというが,研究は十分といえない。
チメロサールをワクチンの防腐剤として使いはじめたのは1930年代だった。そして43年に,アメリカの精神科学者レオ・カナーが幼児「自閉症」の症例を世界ではじめて報告した。翌44年にオーストリアの医師ハンス・アスペルガーがカナーよりも軽い症例を報告し,いまではその症状を「アスペルガー症候群」とよんでいる。
いまのところチメロサールに対する規制が日本やアメリカにはない。チメロサールをふくむのは,菌が生きていない不活性化ワクチンおよびトキソイドという種類で,ジフテリア・破傷風・百日咳の「三種混合ワクチン」のほか,インフルエンザHA・日本脳炎・B型肝炎の各ワクチンがこれにあたっている。チメロサールの含有量については,「細菌製剤協会」のホームページで調べられるようになっているから,関心のある方は,ここで調べていただきたい。
▼チメロサールをめぐる動き
アメリカで水銀含有ワクチンの回収をもとめる「自閉症児」の市民団体「セーフ・マインズ」などが,過去の情報や経過をまとめて公開している(3)。
古く82年の記事。日本の厚生労働省にあたるFDA(連邦食品医薬品局)の専門家会議がチメロサールの毒性に気づいた。市販の医薬品からチメロサールを除去するよう勧告を出した。しかし大きな問題とならず,そのままになってしまったという。
84年5月の東京地裁の判決に,ワクチンによる神経系障害にはチメロサールなどの添加物その他の物質も関係しているとの記述があり,日本でも当時チメロサールの神経毒性が問題になっていたことがわかる。
00年4月,アメリカの研究者サリー・バーナード,アルバート・イナヤティらが詳細な研究をもとに,チメロサールの水銀が「自閉症」の主な原因であると発表した(4)。
「自閉症」の中でも,脳に特別の変化が認められず,原因のわからない症状が,水銀中毒の症状と非常によく似ていることを明らかにした。その要点は次の通り。
①原因不明の自閉症は,多くの,というよりたいていの症例で,正常な発達の期間をかなり経たあと急に兆候が出るが,これは発達初期の水銀曝露によって起きる。
②この型の自閉症は,水銀中毒の特殊なケースをあらわす。
③ワクチン接種でチメロサールから水銀を過剰にとりこむことが,自閉症の諸特徴を生じる原因である。
④チメロサールの悪影響が一部の子どもにしかあらわれないのは,遺伝による素質やその他の素質が関係しているからである。
⑤チメロサールの水銀は,従来知られていなかった水銀症候群を引き起こしている」。
01年3月,赤ちゃんのときにうけたB型肝炎などのワクチンが障害の要因になったとして「自閉症」の人たちが製薬会社を訴えた。アメリカ・テキサス州オースチンにある地方裁判所がこの集団訴訟をうけつけ,審理が始まった。原告側は10を超える製薬会社に損害賠償を求めた。その後,アメリカ各地で同様の訴訟が起こされ,審理中である。
▼下院小委員会で調査
この問題に対して議会や政府はどう対応してきたか。00年7月,アメリカ下院の議会改革委員会で「自閉症」と水銀の結びつきについて公聴会が開かれた。委員会のダン・バートン委員長自身が「自閉症」の孫をもつため,問題の解決に強い熱意をもち,これが公聴会の実現につながったようだ。証言から一部を抜粋しよう(5)。
「解毒の過程を調べたところ,発達に遅れのある子どもでは,解毒のはたらきが恐ろしく不十分であることがわかりました。……有機のエチル水銀が脳に入ると,無機水銀に変わります。こうなると血液脳関門から元にもどることはできません。……キレート剤を使うと発達障害をもつほとんどの子どもの尿から高い濃度の水銀が出ます。血液検査で判明するよりずっと多くの子どもから鉛が出るのも興味深い事実で,脳内で鉛がエチル水銀の毒性を増強しています」(ステファニー・ケーブ医師)
公聴会のあとで「セーフ・マインズ」が結成され,FDAに対して請願を出したが,1か月後に拒否されたという。
翌01年4月,同委員会で2度目の証言が行なわれた。新しい証言をひろってみよう(6)。
「40万人以上の子どものデータベースを使った調査で,チメロサールをふくんだワクチンを何度か接種した2か月児では,全般的な発達の遅れと統計的に有意な関連が見られたという発表があります。3か月児ではチック症状,6か月児では注意力不足の障害,ことばと神経発達の遅れが全体に見られました」(ジェフリー・シーガル医師)
「試験管をつかった実験でチメロサール含有ワクチンは,チメロサールを含まないか低濃度のものにくらべて劇的に強い毒性を示しました。……これは86年に報告がある細胞培養研究の結果とよく一致します。……分解生成物が神経毒性をもつとわかっているものを防腐剤として使い続けているのは理解に苦しみます」(ボイド・ヘイリー教授=当時ケンタッキー大学,現在はシカゴ大学に在籍)。
▼下院小委員会の最終報告
アメリカ政府は,チメロサールが原因かどうかの判断を灰色のままに残し,ワクチンから水銀を除去することで問題に対応した。はっきり水銀が原因としてしまうと,その影響があまりに大きいのを恐れて,一応の決着をつけたことになるだろう。
しかし,ヘイリー教授は「チメロサールをふくむワクチンはきわめて強い毒性をもっています。この毒性は大部分がワクチンに含まれる化学物質との相乗作用によるものです」と研究会で報告している。
また,ファイファー医療センターのウォルシュ医師らは,
「自閉症の患者503名をセンターで調べたところ,499名で銅と亜鉛の血中濃度が異常に高く,メタロチオネインという蛋白の機能不全を示していることがわかりました。人では,この蛋白が水銀などの重金属類を排出して血中濃度をコントロールし,神経の発達を後押ししています。メタロチオネインの機能不全が自閉症の主な原因になっている可能性があります」と報告している。
このような背景を踏まえて,下院の議会改革委員会は調査を続け,今年からは人権福祉小委員会が仕事を引き継いだ。その結果をまとめた報告書が03年5月3日にシカゴのロヨラ大学で発表された。
報告書は,「自閉症の症状は水銀中毒の症状ときわめてよく似ている」,「接種の義務づけで,一日8000人の子どもたちがFDAの基準を超える水銀を取りこむ」などと述べたあと,「政府機関および産業界の科学文献や内部資料をすべて見直した結果,チメロサールにはリスクがあるという明確な証拠を見つけた。低濃度による慢性暴露によるものであっても,高濃度の急性暴露によるものであっても,そのリスクは理論上のものではなく,きわめて現実的なもので,医学文献にそれが示されている」と明確に述べている。
▼報告書の成果と勧告
報告書の後半には,判明した成果と勧告とが列記されている。まず判明した成果の中から重要部分を抜き出して見よう。
「水銀は人に有害である。医療品に使うのは望ましくない。必要最小限にするか,完全に除去すべきである」
「合衆国の自閉症児の数は年間10%から17%の割合で増加している。この爆発的増加について,医学界は原因を究明することができていない」
「エチル水銀の神経毒性や腎毒性については不十分な研究しか存在しない」
続いて勧告の中から重要なものを拾って見よう。
「人,動物,環境からこの危険な毒物を除去する総合的方法を開発するべきである」
「アメリカ全土から科学的な知見を集め,自閉症という流行病の原因を突き止めるよう国全体で努力するため,大統領がホワイトハウスで自閉症に関する会議を召集するべきである」
「自分たちの子どもの自閉症がワクチンによって生じたと確信のある家族は,国家ワクチン障害補償プログラムに登録する機会を与えられるべきだとする条項をこのプログラム中に含めるよう,議会は法律を改正する必要がある」などと述べ,最後に次の勧告で締めくくっている。
「水銀・メチル水銀・エチル水銀への暴露と自閉症圏障害・注意欠陥障害・湾岸戦争症候群・アルツハイマー病との因果関係を研究する計画を優先するよう,議会は国立保健研究所(NIH)に指示を与えるべきである」。
▼キレート療法で症状改善
ほんとうに水銀が原因なら,水銀を身体の外に排出することで障害を軽くできるに違いない。こんな発想から「自閉症」の治療を試みて成果をあげている医師がアメリカで増えてきた。日本でも同じ試みが現れている。
水銀などの重金属をはさみこんで体外に出す薬剤をキレート剤とよぶ。キレートはギリシャ語でカニのはさみを表す化学用語で,その作用は強く,体に必要な金属まで排出するので,不足しないようサプリメントで必要な金属を補充しながら投与する。
キレート剤のDMSA(ジメルカプトこはく酸)のみ,あるいは日本でも保健剤として市販されているリポ酸を併用して,この療法をつづけているエイミー・ホームズ医師は,五歳以下の子どもに実施した場合,四○人中七人で顕著に症状がよくなり,一六人にかなりの改善があったと報告している。改善率は年齢が低いほど高い(7)。
課題は,脳内にとどまっている水銀をどのように効率よく排出するかという点である。ホームズ医師は,「リポ酸は脂質に溶けやすいので,DMSAよりも簡単に血液脳関門を通過できます」と述べ,治療効果に期待をかけている。
▼ガイアー論文の結論
先にとりあげたガイアー博士らは,論文の最後を力強い結論で締めくくっている。
「子どものときに受けたチメロサール含有ワクチンによる水銀量と,神経発達上の障害や心臓病とが関連しているという強い疫学的な証拠が存在する。これがこの論文の示すところである。
子どものワクチンに含まれるチメロサールの水銀量は,連邦政府の安全ガイドラインを超えている。水銀が引き起こす有害反応の生物学的メカニズムを解明した多くの文献に照らしても,またこうしたワクチンによる有害反応をしめすこれまでの疫学研究によっても,子どものチメロサール含有ワクチンと神経発達障害や心臓疾患との間の因果関係が確認されたと考えられる。
すべての子ども用ワクチンからチメロサールを除去すれば,明らかに医原病である自閉症と言語障害という,合衆国が直面している悲劇を食い止めることができるだろう」。
文献
(1) www.house.gov/burton/pdf/MercuryExecutiveSummaryFindings.doc
(2) www.jpands.org/vol8no1/geier.pdf
(3) www.safeminds.org/
(4) www.autism.com/ari/
(5) www.house.gov/reform/hearings/healthcare/00.07.18/index.htm
(6) www.house.gov/reform/healthcare/autism.htm
(7) www.healing-arts.org/children/
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